今の行動に意識を集中して、何事も思わずただ現状を感じるのに一番適した状況が反復練習です。私がいつも不思議なひらめきをいただけるのはこの反復練習の時が圧倒的に多いからです。反復練習と言っても50回やるとか100回やるとかそういうことではありません。寧ろそういうやり方で進めると義務になってしまうので他力は働かないものと思います。

それよりも、ただ何も思わずひたすらに気になるところの台詞を何度も読んだり、相手の台詞をイメージを何度もしていると『これって、そもそもなんでそういうこと言ってるんだろう?』とか『なんでそういうこと聞いてるんだろう?』という素朴な疑問が出てくるのですね。

その時に、気になって台本の前後を確認したら『もしかして、これって本当はこういうことが言いたいのかな?』というアイデアが出るのです。

そういうアイデア、実は他力の場合があるのです。

アイデアは色々出てきます。この中に他力が働いたものは、今まで全然考えもつかなかった今までとは全く異なった展開なのにもかかわらず、台本の全てにおいての辻褄が合うという目からうろこのような発見することがあるのです。そしてこの起きたものこそが実は作品の作家の一番言いたかったことではないのだろうかというものに繋がっているようにも思うのです。

台本というのは作者のあるがままでするのはとても難しく、その台本を読んだ解釈によって、どうしても俳優、演出、スタッフの色に染まってしまいます。ですので、作者の意図通りに作品を作り上げることはほぼ不可能なのですが、上記のようにふっと他力が働いたアイデアから作ったものは、変な言い方ですが、作品を作った作家にも新たに気がつかせるようなものが宿っているようにも思えるのです。私はこう書いたが上演したのを拝見して、新たに私はこういうことが言いたかったのかのかと逆に気づかせてもらったという作家さんも実際におられるのです。つまり、作家も自分の作品を追究してるからこそ、違う視点から考えさせられる機会が与えられて、自分の表現を逆にフィードバックで教えてもらえ有難かったということもある。もちろんこの時、作家が悔しがるということもあるのかもしれんせんね。

他力というものは、説明がつかないものではあるけれど、そういう不思議な相乗効果をもたらしているのだけは事実です。そうして、観客の心と作り手の心を一緒にする現場を数多く経験してきました。私たちのお仕事は、劇場まで足を運んでいただいて、お金まで払って観て下さっているお客さまから、お礼を言われる世界なのです。上手くいけばの話ですが……(笑)

ただ、そういう経験をしていくうちに思うことは、お客様ご自身も、劇場が一つになることの素晴らしさが良くお分かりになられてらっしゃるのです。

ひいては、それがどれだけ素晴らしく、どれだけ崇高なことなのかは誰もが心の中で分かっていると言えるのではないでしょうか。

そのように、演劇人は、お客様の中にあるものを呼び起こす崇高なことをしているのだと思っています。人の心を動かすことの難しさ。このことが分かっているからこその技術がどうしても必要なのです。そのためには一つ一つの台詞。一つ一つの動作。ここに磨きをかけている俳優であればと願うのです。一つ一つ自問自答するかのようにただ、一つの台詞一つの動作に意識して反復させる。そういう場をたくさん作っている人は間違いなく他力が働きます。

他力が働くと、今まで気にも留めていなかった細部にまでこだわりたくなる

つまり、これは、今まで全部しなければいけないのかというタスクと取っていたものが、全部、やってのけてみたいという欲に変わるのです。人間は欲望のままに生きるということを良しとしないお教えもありますが、欲があるからこそ、自分を動かす原動力となっているのです。ですから、欲を戒めるという教えは、

出る杭は打たれる

ような社会を生み、画一的な人間が増えるだけで面白くはありませんよね。嫉妬というような、妬みは欲があればこそ起きるもので我慢するから発生している。そう考えれば、我慢せずに欲を上手く生かして、嫉妬のようなつまらない思いをしない方がどれだけ幸せなことだろうかと思います。周りに嫉妬している時間があるなら、目の前のことに集中して他力を働かせることをして、周りとの調和を図る方が幸せなのですよね。

このように技術を磨くためには自分の身体に覚え込ます利点と、他力に出会うチャンスもあたえてくれるのです。千羽鶴も、お百度参りも、何回も反復するのは祈りがいつしか行動に表れる。それは、無意識な状態でも祈っている。つまり自分の心の奥に刻み込む作業をしているのだと思います。自転車や車のように、最初は、頭で考えて動いていたものが、いつの間にか手が勝手に、足が勝手に動いている状態になりますよね。つまりオートパイロットモードです。意識のないところで自動運転しているのです。この願いや祈りも自動運転にしてみれば、いつしか願いが願いではなくなり、現実のこととなる日が来るのかもしれません。

嘘のようなホント話(笑)

最後までご覧くださいましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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