演じるということは役の人物に成りきると考えている人は多い。
しかし、私は、
違う人間になろうとしないで自分を表現することが大事
だと考えています。
違う人になろうとする時点で、リアリティが生まれないからです。
役に人物を介して自分を表現する
誰でもない自分自身を表す。これに徹しなければ、お客様の目の前に生きている人間は存在しないからです。
目の前で一人の人間が生きているように見ていただくためには、
私たち全ての人間の中にある共通した意識を浮かび上がらせること。
誰もが同じように感じるであろうある種の普遍的なものは、嘘偽りのものでは絶対に表現できないからです。
違う人になろうとする時点で既に偽りのもの。
ですから、違う人になろうとしてはいけないと
こう難しく話すのです(笑)
すみません。こういうのを一人前に講釈垂れやがってというのでしょうか…(笑)
人の心を動かすためには、嘘偽りのない、飾らないありのままの人間をさらけ出す方が良いと簡単に言えばそういうことです。
お客様に分かりやすい演技をするために、説明的な演技をしたりするよりも、
ぶっきらぼうで飾らない、説明もしない演技の方が心は伝わる。
私たち演技者は計算間違いをしてはいけません。
お客様の想像力で作品を膨らませてもらうこと。
そうして演技はお客様の力を借りて初めて素晴らしい表現となることをもっと演技者は知る必要があります。
お客様と共にお芝居を作るという考えが要るのです。
分かりやすい表現をすれば良いと考えるのは、お客様の楽しみを奪う行為になる可能性があります。
お客様に想像の余地がなくなると、目の前のことをただ受け入れるだけのつまらない作業にしかなりません。
そうなると、
この話はいつになったら終わるのかな…
と関心を寄せることはそれくらいになります。
お客様がたくさん思いを馳せて作品をああでもないこうでもないと考えていることが実はとても大切で、これは結果的に作品を温めていただくことに繋がっているのです。作品に対して思いを馳せている時間が多いと時間はあっという間に過ぎていき、過行く時間は惜しい時間となるのです。
お客様が途中で眠ってしまう原因の一つは、話についていけないことよりも、話が途中で分かってしまってこういう話なのだと判断した時なのです。
この話はこうだなとお客様が判断した場合、その後の話は目にも耳にも情報は入ってこなくなります。判断してしまった以上、関心が一気になくなるからです。
関心がなくなれば、次に思うことは、早く終わらないかなということ。
静かにじっと座っていることが拷問のような状態になってしまう場合だってあるのです。
折角お金払って観に来ている訳ですので、じっくり楽しみたいはずなのが、早く終わらないかなと……
こうなると本当に残念ですよね。
こういうことをしてしまうと私たちはお客様を失うことになるのだと思います。
そうならないために、
お芝居はお客様の力を借りて初めて素晴らしい作品になる。
ということを頭に入れて取り組んでいただければと思うのです。
お客様と共にお芝居を作るという想い。
まず、お客様の力を借りるためには物語の中に入って頂くことが第一ステップ。物語に入っていきやすくするためにはリアリティのある表現が求められる。こうした演技であたかも目の前で生きているような感覚を起こすくらいのものにします。そのようにして、お客様に味方についてもらうのです。
そして、その役の人物がこの先どう向かうのかを見守って頂くようになれば、お客様と一緒に舞台を育んでいけるようになるのです。
お客様と一緒に舞台を作るということは作品を育むことなのです。
最後までご覧くださいましてありがとうございました。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。