私たちの普段の動作は無意識でしている部分が殆どです。

例えば、自転車に乗っていたとします。ペダルをこぐ時に、右足を動かそう。次に左足を動かそうと思ってはいませんよね。自然と足が動きますよね。自転車で曲がる時も、右に曲がる時に、右手を引いて左手を遠くにして曲がろうなんて考えませんものね。

自動車の運転も話をしながらですと、いつの間にか目的についたという経験もお有りかと思います。

息もそうです。

そろそろ苦しくなってきたから息を吸おうという人はいませんよね(笑)

このように無意識ではあるけれど、しっかりと動作をしている「オートパイロットモード」のようなことが人間には多くあります。

ですので、演技の練習の時に、

ペットボトルでお茶を飲んでみてというと、一応にみんなやっては見せるのですけど、

実際に動いている感じがほぼ無意識の動作であるために、全然リアルな動きが出来ていない人は結構多いのです。

例えば、

道具は一切なしにペットボトルのお水を飲むという動作練習をします。

今風に言うとエアーでやるのですが、

その時、ペットボトルの蓋はどれくらい回せば開くかご存知ですか?

ゆるく締めて、ゆっくる大きく腕を使えば、大体3回くらいで空くのですけど、

実際にモノを使わず、エアーで蓋を回す練習をしていると

10回くらい回す人がいるのですよ(笑)

あと、飲むときのエアーのボトルの位置も

そこまで傾けなくても飲めるのに、思いっきり傾けて飲む人もいるのです。

他にも、

道具を使わずに「食事して下さい」というお題を出すと、

どうやってお箸を持っているのかが分からない。お茶碗とる時どうしてるんだろう。置く時どうしてるんだろうと、

毎日している動作にもかかわらず、模倣できない人は少なくないのです。

このような練習をすると、

自分で思っている感覚は全くあてにならない

ということが簡単に分かります。

ですが、人間は思い込みが激しいので、

実際にどう動いているかよりも、

自分の思っている感覚で動いてしまうのです。

ですので、

演技をしている人で可笑しな動きをしてる人は殆どこのことが理解できずに演じているのですね。

そしてこういう人が本当に多い(笑)

こういう光景を見ると、

演技は思っただけで出来ると簡単に思っている人が多いのだなと感じます。

誰でもできるようなものであるならば、それに対しての価値はありません。

演技というのは

観客には分からないもの。

観客に演技と見えてしまったらそれは演技とは言えないのです。

お芝居を見て下さったお客様に、ご感想で上手かったと言われるよりも良かったと言われた方がバレてないのです(笑)

作品の世界に誘うのが俳優のお仕事で、演技を見せている訳ではないのです。

お客様に演技をしているなと思われた時点で、作品の世界に入り込んでいただけなる。

だから、例え、細かな動き一つでも、現実に引き戻してしまうことになりかねないので、しっかりと模倣して、よりリアリティを追究した演技が求められるのです。

それとですね。

もっと重要なことがあるのです。

それは、

こんな感じでやってますと思ってやると自分が空々しく感じる

ということ。

実はこれが一番の問題で、

自分に嘘はつけない

のです。

なんか、やってるだけって感じになって、演技しちゃってるよな…って自分で思ってしまうのですね(笑)

そう思ってしまうと、どうなるか?

無意識に観ている人にもその思ったことが伝わる

ということが起きてしまうのです。

つまり、思ったことは伝わり、演技とは違う動機を感じるので違和感が出てくるのです。

それは自信のなさを無意識に感じるかもしれません。

あまり力を入れて演技しているところではないなと感じるかもしれません。

このシーンもしかして稽古不足???(笑)

そう感じることだってあるのです。

それは次に言うことが問題と言えるのではないでしょうか。

自分の演技に責任を持っていない

少し厳しい意見に聞こえるかもしれませんが、

自分が思っている感覚だけで演技を作ってしまってしまうと、その本来の役の人物の動機ではなく、自分の動機が表れてしまっている、

つもり芝居

になっているのです。

○○しているつもり……

となっている。

それは、自分に及ぼす影響の演技だけならまた良いのですが、

お客様にも伝わって、悪い影響を与えてしまっている演技になるのです。

お客様に見たいただける演技とは到底言えません。

ですから、

自分が実際に思っているだけの判断で演技をしてしまうとよくないのです。

責任ある演技をするのであれば、

無意識の動作をまず意識化して、その動きをまず模倣する。

そして、

その動きを何回も反復して身体に覚え込ませる

こうすることが、まず責任のある演技習得の第一歩となるのです。

そして次に、不思議な話をさせて頂きます。

動作から心を教わる

動作の反復練習をすると、身体にその動作を覚え込ませるだけではなく、もう一つ素晴らしいことが起きるのです。

何回も何回も練習していくと、

ふと、その動作に付随した感情が湧き起ってくる

私たちの俳優養成講座ではこのことを

身体を動かして感情を誘発させる

と言って、このような練習方法を実践しています。

そんなこと本当にあり得るの???って思われる方結構多いかも知れませんね。

これは他力本願だと思います。

一つの芸事に従事して一心にことを成すと

他力が働きかけてくる

他力とは阿弥陀如来のお力ということ。

一生懸命念じた行動をしていたらふっとしたひらめきや感情があらわれてくる。

どこからそんなひらめきが来たのかはたまたアイデアが来たのか分からないのですが、

反復練習をしているこの無心のような状態の時にふっと表れるのです。

このふとした感情が表れるとその時にしていた動作の感覚を心に留めておく。

そして、この動作をした時にその感覚を再現させると演技となるわけです。

私たちの演技練習はこのように神がかり的な練習をしています。

ですから、俳優業のという仕事はとても素晴らしいことをしていると自負しております。

素晴らしい表現を出すためには、自分が凄いことをしていると感じなければ表れてこないように思います。

自己肯定がなされない中では生まれない技術です

こう考えると、私たち一人一人に素晴らしい力が備わっているように思います。

自己肯定をしてその素晴らしい自分を表す活動をしたいですね。

これがまだ見ぬ自分だと言えます。

自分が変わるのではなく、本来の自分に出会うのです。

私たちは本来の自分に出会う旅をしているのだと思えてきます。

だから、演技練習に深さを感じるのです。

頭でっかちですと、本来の自分になかなか出会えないのかもしれませんね。

最後までご覧くださいましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

LINEで送る
Pocket
このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です