相手を思い演技しやすいように動く演技のことを私たちはホスピタリティのある演技と言っています。痒い所に手が届く演技でもあります。例えば、二人の会話の稽古をしている時に、非常にテンポが悪くなってしまったとします。この時、多くの人が、もっと間を詰めてポンポン台詞を掛け合う様にと考えますが、それではテンポは良くなりません。テンポが悪い原因は間を詰めていないのが原因ではなくて

お互いが相手の台詞をしっかりと聞けていないから

ということが実は一番のテンポの悪い原因なのです。もし間を詰めてポンポン台詞を言うとどうなるかというと余計に相手の話が聞けなくなるので、さらにテンポが悪くなるのです。だから、ここをよく理解してらっしゃる演出家の方は、

相手の話をもっとしっかりと聞きなさい

と聞けていない俳優にダメ出しをすることになってしまうのですが、これも根本的な問題の解決にはなっていなくて、本当は、台詞を聞く人よりも台詞を話している人が「役の人物の動機で話していない」というのが原因だったりするのです。これはどういうことかというと、台詞を話す時に「こういう感じで言おう」と考えると、自分で抑揚や強弱をつけて「台詞を鮮やかにしよう」「奇麗なまとまった表現をしよう」としてしまうので、リアリティとは違ったモノの言い回しとなり、役の人物の動機ではなく、演技者の動機が聞き手の演技者に無意識に伝わってしまうのです。こうなると、相手の台詞は全然、聞き手の心には入ってこなくなるので、気持ちを動かす機会を失ってしまうのですね。そうすると、聞き手の俳優は聞けてないのにもかかわらず、

『相手が話し終わったら話さなきゃ』となるので、ここでも俳優の動機が見えてくるのです。

このように役の人物の動機ではなく、演技者の動機が現れてしまうと、会話も白々しく感じて、それでもこの二人の掛け合いが終わるまで待たないといけなくなるので、テンポが悪く感じられたりすることもあるのです。ですので、ここは相手の心にすっと入る台詞を渡してあげることがホスピタリティのある演技となり、これがテンポを改善させる真の原因となるのです。

台詞が相手の心に届いていないから変な間が出来ている

そう考えるくらいが丁度良いでしょう。相手の心に入る台詞を渡すと、相手にとってはとても演技しやすい相手となるので、とても喜ばれます。何回やっても心に入ってこない場合は新鮮さが抜けているというだけではなく、リアリティのある話し方をしていないのです。だから違和感を感じてしっかりと聞けなくなっていて、その結果自分の間がうまく取れなくなってしまうのです。「相手にこうしてあげた方が話しやすいだろうな」とか「ここにいてあげれば、こっちに向きやすいだろうな」とか「ここのスペース空けたら、自由に動けるだろうなとか」

こういうことを予め頭に入れておくと、共演者の方々もとっても仕事がしやすくなるので、そのためにはそういう動きが出来るような演技の引き出しをたくさん身につけていただければと思うのです。またこういうことで視野が広がり、演出の考えることも、ひいてはお客様の考えることも段々と分かってくるようになります。演技で人の心を動かせたいのであれば、まずは身近な仲間の心を動かそうと意識してみて下さい。

もしあなたがホスピタリティのある演技で取り組んでいけば、周りの演技者は「やりやすく演技が出来るような配慮をして下さっている」とやがて周りが感じることになるでしょう。そうすると、そのおもてなしが感謝の気持ちになり、今度は周りがあなたの為におもてなしの心を持って演技をするようになるのです。このような演技者が増えると、自ずとテンポの良いお芝居が作れるようになってくるのです。おもてなしは、他者への関心がなければ、出来ることではありません。ですので、他者の喜ぶようなことができる人に成れたら良いですね。

与えることができる人はとても魅力的ですよね。演技者であれば、演技を磨くことも大切ですが、それよりもまず、誰かを喜ばせる人でありたいですね。影響を与えられる人に。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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