自分の感覚から教わる 

またまた不思議なことを言いますが、演技の答えは台本にはありません。台本は飽くまでも、作品の世界を進めるためのものであるだけで、こうして演じて下さいとは書いていないのです。だから、読み手の感覚で演技を作り上げなければいけないので、

演技の答えは台本にはなくて自分の心の中にある

このことをご存じない演技者は多いのではないでしょうか。ですから、自分が台本を読んでどう感じたかで、作品の進行が変わるのです。仮に、例えば「この台詞は怒りを表現している」とセリフの言葉だけで捉えると、実はそれは間違いだったということもよくあるのです。何故なら、人間には裏腹な感情表現もあるからです。この裏腹な表現は、セリフでは怒りの表現となっているが、実は怒りではなく嬉しさを表現しているというセリフだって山のようにあるのです。しかし、台本を読み慣れない始めたての演技者は、そのことになかなか気がつかずに、

台詞ではこう書かれているから

ということに固執し、字面通りの表現をする方は意外と多いのです。

しかし、このようにされる方でも、実は、感覚では「どこかおかしい」と思っているのです。それは、何故そう言えるかというと、

自分の感情が自然に湧き起こらないから

なのです。しかしここで、またまた勘違いされる方もおられます。

演技者は台本貰って演じている訳だから相手の台詞も分かっているし、先がどういう展開も分かるから、感情が動くはずもない

と。果たしてそうでしょうか?

 いいえ、それは違います。感情が動くメカニズムが分かれば、感情を湧き起こらせることは出来るのです。その方法が、

自分の感覚から教わるという練習方法

という訳なのです。言霊という言葉があります。これは、言霊にはエネルギーがあり、その言葉の通りに向かう性質があるようなことが言われていますよね。私もそのように思っていますが、この話をするととても長くなるのでここでは話しませんが、この言霊と同じように、身体動作でもそれと同じようなことが出来ると考えております。これが、私の講座でよく出てくる言葉ですが、

身体動作から感情を誘発させるという演技術

なのです。これは人間の動作はほぼ、無意識で動いていることが多く、動作を起こすことによって感情が誘発されてることを意識的に理解してそれを模倣して、実際に感情が湧き起る感覚を掴み、それを再現させるという方法です。台詞表現は主に自分の台詞に着目しますが、動作表現は主に相手の台詞やト書きに着目すれば、表現の答えは見えてきます。つまり、動作表現というものは、相手の台詞に対してどのように感じたかというものが非常に重要で、自分の置かれている状況に対しても、どう自分は感じているかということがとても重要なのです。この自分がどう感じているのかというのが、言わば動作表現となり、その表現が感情を誘発させるトリガーとなるのです。

そして、感情を誘発させるトリガーの代表動作が『息』になります。これは何度も申し上げていることですが、この息が感情の誘発させるトリガーになるのです。この息が忠実に守られれば、感情は自動的に誘発させるようになるのです。

これはとっても不思議なことですが、熟練の俳優と同じ舞台に立ってやり取りをすれば直ぐに分かります。

その熟練の俳優と芝居するととっても芝居がしやすくなる

気がつかないうちにどんどんのせられる感覚が本番の舞台で体験できるのです。それは、熟練の俳優が見えない感情発動をさせる数々のパズルを劇場空間内でしっかりと組み立てているからに他ならないのです。こういう技術を身につけるためには、自分で感情が動くメカニズムをよく知る必要があります。ですので、そのメカニズムをよく知った上で、演技をするとリアリティのある演技を手に入れることが出来るのです。今、当にそこで生きているという表現になれば、稽古でも場が締まります。こうなると演出も敬意でもって見ることになるので、当然批判的なモノがなくなるのです。つまり、稽古が面白い方向へ行く環境を自らで作っているということになるのですね。ですから、このリアリティを追究した演技を是非身につけた方が良いのです。

では、最後のページで、この演技を身につける方法を具体的にどのように身につけるかというお話をさせていただきます。

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