観客にお芝居をどのようにしてお見せするのか……。
しっかりと演技を組み立ててお見せするのですが、その組み立てのことを私たちのブルアメソッドでは『演技プラン』と呼んでいます。
この演技プランの最も重要なお話を今回させていただきます。
演技プランでまず必要なのは「お客様目線」です。
お客様ならこのようにしてご覧いただくという想定のもとでこの演技プランを構築していきます。
お客様の目線とはどういうものか……?
これは以前、台本の読み方等でもお話しさせていただいているのですが、初めてお客様が作品に触れる感覚の目線ということです。
役者はこのことを心得ておかなければなりません。
お客様ならこのシーンどのようにして観て、どのように感じるのかをしっかりと部分部分で仮説を立てて把握しておくと、それに対してどのようにお見せすればより効果的に伝わるのか、はたまた印象を持っていただけるのかという明確なプランが立てられるのです。
演技プランでは、このように仮説に基づいて演技を組み立てる作業を行うのです。
そのプランが正解かどうかは台本の流れと辻褄が合うかどうかで決まりますので、台本と照らし合わせてみて、合っていればその演技プランで稽古に臨みますし、違っていれば、また仮説を立てて演技を組み立てるということをします。
ここでまず問題になるのが、どのようにして仮説を立てるかということです。
ここで、キーポイントになるのが
台本は初見が大切
ということです。
これはどういうことかと言いますと、役者が最初に台本に目を通す時にどのように感じたかというものと、お客様がその台本作品を観る感覚が似ているということなのです。
例えば、役者であるあなたが初めて台本を読んでいる時に「これはどういう意味で言っているんだろう?」と引っ掛かったとします。
するとその引っ掛かりは、その公演を初めてみたお客様にも同様の引っ掛かりがあるということなのです。
勿論、何回も同じ作品をご覧になっている観客もいるので例外もありますが、こういう初見で引っかかった感覚はお客様の感覚とほぼ同じということを頭に入れておくと良いでしょう。
ですから、私はは初見で読む時の情報はノートに取っておくことを強くおすすめしていまして、どうしておすすめするのかと言いますと、稽古を進めていく内にそういった新鮮な情報が段々塗り替えられてしまって、忘れ去られてしまうからなのですね。
ブルアメソッドではそのノートのつけ方までお教えしていますので、もしご関心がありましたら、俳優養成講座にお越しいただければそこも勉強が出来ます。
先ほどの話を続けますと、この初見の引っ掛かりがお客様と同じ感覚であるということ。
これは、お客様は今このようにご覧になっていると仮定できるようになりますよね。
これを私たちは
芝居観
と言っているのです。
この芝居観というのは、いわば経験値によって培われている部分でもあるのですが、如何に少ない経験でこの芝居観を培えるのかというと、上記で記したように、一つひとつお客様がこのようにご覧になっているという仮説を立てていくという意識で臨むことがとても大切になるのです。
闇雲にやってはなかなか芝居観は身に付きません。
ですからこのことはできるだけ早く知って身につけておくこと。それが、頭一つ抜けることのできるマインドにもなるのです。
舞台の世界は、主役とそのまわりを囲む脇役がいます。
この役どころの違いにはこういったマインドに現れるので、早くからこのことを認識して舞台に立つことが自分のより良い環境を作る方法でもあるので、これからの俳優を志す方々に切実に訴えているのであります。
さて、次にお客様の目線で仮説を立てることにはもう一つのメリットがあります。
これが今回のテーマになる話です。
それが、
お客様の目線で作る演技プランはお客様に共感を得やすいということ
です。
これが前回の記事で申し上げた、
お客様を味方にする方法
でもあるのです。
もし、自分がお客様目線でしっかりと把握した演技プランを立てることが出来て、そのプラン通りに演技が出来れば、お客様のテンポでお芝居が進められるのでお客様からしてもとっても見やすくなるのです。
これはお客様と波長が合っているということなので、お客様は心地良い感覚でご覧いただけるようになるんですよ。
よく、舞台を観ている人の感想で、どうしてもあの人を見てしまうというものがありますよね。
それはその特定の「あの人」からの情報を得ることで、この作品自体の意味を理解しようと無意識に働いている訳なのです。
ですから、そういう役者になれれば、もの凄く注目を浴びるようになれるのです。
お客様と同じ感覚で演技をすることの重要性はこれでお分かりいただけたかと思います。
これは表現力が豊かなのとは全く関係がなく、お客様との基本的なコミュニケーションの取り方がしっかりと出来ているかという問題なのです。
お芝居は役の人物の感情を表現するだけではいけないのが、この説明でよくご理解いただけたかと思います。
お芝居は極めて冷静に、お客様とのコミュニケーションを図り、その都度その都度、対応することが求められるのです。
これも演技の一つなのです。
Blogですので、具体的な例を交えて実践的にお教え出来ないのはなんとも歯がゆいですが、この知識だけでも持って、ご自身で試行錯誤されるのも良いなと思いましたので、こういう演技の考え方もあるんだよというくらいに頭の隅にでもおいていただけると幸いです。
最後に、
実践は出来ませんが、実践をする時の考え方をご紹介します。
前回のBlogでは、伝わりやすい演技という内容をご紹介しました。
それを含めたお話になります。
演技の表現には大きく分けて2種類あると申し上げました。
セリフ表現と動作表現です。
そして
動作表現の方が伝わりやすい表現
とも申し上げました。
これは何故かと言いますと、
セリフ表現では断定できますが、動作表現は断定できないから
これに尽きるのです。
これはどういうことかと言いますと、
セリフは「これは○○です。」言われれば、○○なんだと断定ができます。
ですから、お客様からすればそれ以上情報を取りにいきません。
一方、動作の場合は、どこまで行っても
「おそらく、そういうことを言いたいんだろうな…」
というところまでしかいかず、どこまで行っても断定できないので、次の情報、次の情報と情報を取りにいくことを無意識にするのです。
そうすると情報をしっかりと処理する…つまり思いを馳せながら演技を観るので次の展開を知りたいと必然的に高くなるのですね。
時間があっという間だという感想をいただけたのならば、このお客様に考える余地がしっかりとあったということなのです。
この考える余地をしっかりと作る方法というのも、実は先ほど申し上げたお客様目線で作り上げた演技プランでできるという訳なのです。
他にも「読点」「句読点」の戦略もありますが、気になる方は是非ブルアの俳優養成講座へお越し下さいね。
演技の作り方に恐らく驚かれることと思います。
芸の道は険しく果てしなく、茨の道を進むが如く。
これは、昔から言われております。
こうすれば良いよというノウハウではなく、自分で実践してみることが何よりも身につくこと。
ですから、このような考え方に至るわけでございます。
お教えする内容でもありますので、無名の人間が偉そうにと思われる方もおられるかもしれません。
ですがそれよりも、多くのこれからの方々に出来るだけ自分の経験してきたことをお教えして、演劇を更なる発展に導いていただければというのが切なる願いでございます。
もし何か演技のことについてご不明な点があれば、可能な限り、お答えいたしますのでお気軽にご連絡下さいね。
さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。