
前回の一問一答でも申し上げましたが、演技というのは「気持ちが伝わる技術」です。
ですので伝える演技というものはありません。
演じているだけで、技でも何でもないということをお話させたいただきました。
自分の表現によってお客様がどのようにお感じになるかまで責任を持つ
ということ。
つまり観客をエスコートし、物語に誘うことが目的ですので、観客がどう思うかまでは分からないというスタンスでやっているといつまで経っても演技を確立することは叶いません。
端的に言えば、
こう動けばこう見える
ということ。
そういう引き出しを駆使すれば、観客は見やすいですし、また心地良い表現にもなり、
いわゆる間の良い役者となり
お客様を味方につけることも出来るのです。
演劇の所作は、
主に役の人物の動機を表現する時の動作
ですが、このような動作は無意識によるものですので、意識してなければ、その動作は分からないですし、観ている人も無意識に観ている動作なので、お客様には見えない動作でもあるのです。
つまり意識しないと見えない動作ですので、演技習得も実はもの凄く難しかったりするのですね。
何故なら、どこに所作があるのかが、レベルが高くなればなるほど、見えなくなるからです。
これは演技指導している時も大変で、目の前でこういう風に動くんですと言って、ゆっくり流してお見せしても、無意識に観ている部分だから、ただ単にお見せするだけでは、どんなにゆっくりやってみせても、見えないのです。
ですから、「ここでこういう風に動くとこう見えるから、ここから向こうに行く」という風に、動きながら、見えない動作の説明を口頭でも行うようにして、漸く分かるものなのです。
そうなんです。
演技って見えない技術なのです
ということを、まず頭に入れておくことが肝心なのです。
まず、技術がどこのあるかを知る。
次にその無意識の行っている動作を分析し、自分なりに模倣する。
ここで面白いのは模倣だけではダメなのです。
模倣して自分なりに動作の美学を考えるのです。
そうすると、自分らしい動きで、しかも所作も行えている訳ですから、より自分の個性が引き出させた演技になるのですね。
こうして所作を意識化する。反復練習をして、自分の体に馴染ませる。
そうして、何も考えずにほぼ条件反射で動けるように再び無意識化させるのです。
こう考えると演技って面白いでしょ?
何事もそうだと思いますが、技術には相当の手間が要るのですね。ここまでの話を整理すると、まず、お客様に伝わる表現というのは、役の人物の動機を表わすもので、その動機から生まれる動作は無意識による動作になります。
この動作をすれば、お客様にも無意識に伝わるので、無意識の動作を意識化して、その動作の反復練習を図る。
身体に馴染ませることにより無意識化させ、条件反射的にきっかけが来たときに身体に反応させる。
この時に動機を表わそうとか、感情を出そうとすると、その思った役者の動機が無意識に出てしまうので、そうならならないように、役の人物の動作を入れることにより自分自身の役者の動機を消し込むのです。
そしてこの練習が、実はもの凄く面白いのです。
基本、所作を丸覚えするところから始めるのですが、これが笑っちゃうほど出来ないのです。
普段の私たちの無意識の動作は本当に偉大です。
身近な例で言いますと例えば車の運転や自転車の運転もそうです。
最初はまっすぐ走ることもままならなかったことが、いつの間にか、何も考えずにハンドルを動かし、まっすぐに走らせているのですね。
このように、実は人間って普段から物凄いことをやってのけているので、せめて寝る前には、
自分よくやったな!頑張ったな!
と労いましょうね(笑)
もっとも演劇的所作と言われているものは、
観客にこうすればこう見えるという動作技術ではあるのですが、自分の感情を誘発させる所作でもある
のです。
実はこのことが最も大事なことでここで、迫真の演技が出来るかどうかが出てくるのです。
私たちはこのことを勝負と言っています。
変な言い方ですが「自分の思うことだけでお客様に伝わる」というところで勝負しているのですね。
つまりお客様に勝負を挑んでいるのではなく、飽くまでも自分に勝負を挑んでいるのです。
これは物凄く大事なことで、自分が本当に役の人物として役の人物の感情が誘発されていたならば、それは間違いなく観客に伝わるからです。
自分がこういう表現をしようともし仮にちょっとでも思ってしまったら、その勝負は負けなのです。
何故なら、こういう表現をしようという役者の動機が無意識に観客に伝わるからです。
変な言い方ですが、勝負する時は、観客の皆様と私たち創作者は一体でならなければなりません。
つまり自分の中に情報伝達させるように、劇場全体にも伝達させる必要があるのです。嘘やだましは絶対に許されません。
それは光よりも早く、光と影のような存在でもあるかのようです。
こういう表現をすると、量子力学に詳しい人は何かピンとくるものがあるのではないでしょうか。
心理学者カール・グスタフ・ユングが人類全て集合的無意識ということを言われてますが、もしかしたら、私たちの意識は一人ひとりの脳や体にあるのではなく、同じところから発信している可能性も考えられなくもありません。
もしかしたら私たち一人ひとり、大元は繋がっている可能性があるかもしれないのです。
そんな不思議な話ではありますが、劇場で、お客様と共感を舞台上で得る時、あの不思議な一体感を感じると、そういう不思議な感覚から、上記のことが思えてならないのです。
それだけ、いつも奇跡を感じ、いつも奇跡が起きて、お客様と共感することを舞台に上がる人間は体験しています。
劇場に奇跡を感じにお越しいただければと幸いです。
伝わる演技とは気持ちが一つになる演技なのです。

さいとうつかさ
劇団ブルア 代表
劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。さらに、自身のBlog『さいとうつかさの演技力会話力Blog』は1000万PVを超え、多くの方々から支持を得ております。