この演技法はあまり知られていないのかもしれません。私も若い頃色々なワークショップを受けましたがこの方法で演技を作っているところはありませんでした。というよりも日本ではあまりなじみのない演技法なのかもしれません。身体動作から感情を教えてもらうような演技法。

こういうと、うさん臭く聞こえるかもしれませんね(笑) 

しかし人間の感情は、動作と連動しています。普段湧き上がる感情の動作を模倣すれば感情が再現させることができるのです。例えば、怒る感情が自然に湧き上がってきたとします。その時の身体の動きを模倣すれば、その体の動きをしただけでその時の感情が湧き上がってくるということです。

本当にそんなことが出来るの??って思うかもしれませんが不思議なのですが本当にそういう風になります。ただし‼ これには少しだけ条件があります。普段から感情が湧き起こることを実感するということと、それを何回も繰り返し模倣するということが必要です。感情が湧き起る感覚を実感して常に研ぎ澄ませることがまず大切なのです。次に何回も繰り返していくうちに「あ、段々と感情が湧き上がってきたぞ…」というような細かな感覚の変化を逃さないということが大切になるのです。

人間は意識しているところに感覚は鋭くなります。普段から自分の感覚はどういう感じで湧き起っているのだろうと考えて生きている人はいないでしょうから、当然そういう感覚は研ぎ澄まされてはいません。ですので、その感覚を養うことから始めるのです。こういう風に感情を湧き上がらせる方法を身につけると、自然な感情表現になるのですね。

前回「感情を出そうと表現してはいけない」とお話ししましたが、感情を出そうと表現するとどうしても俳優の動機が見えてしまうのです。「私は怒ってる!」「私は悲しんでいる!」と言っているような演技表現になり、これは押しつけがましい演技になります。そうではなくて上記で書いた『身体動作から感情を誘発させる』演技法を使えば、自然に感情が表れているように見えて俳優の動機ではなく役の人物の動機が見えてくるようになるので、お客様が作品の世界に入りやすくなるのです。

どうして自然に見えるかというと、俳優は役の人物の感情を表現しようとしているのではなく、飽くまでも役の人物の感情を動かすための動作を表現している訳ですので、役に人物の動機で体が動いているという風にお客様からは見える。だから、あたかも目の前で役の人物が生きているように捉えるようになるのです。

ではどうして、目の前で役の人物が生きているように見えるのか?ということですが…実は人間には凄い能力がありまして、無意識に役の人物の動機を感じ取っているということがるようなのです。感情を出している表現の演技を見ると

なんかお芝居っぽくで上手いんだけど演じているよな

と感じて、身体動作から感情を誘発させている演技を見ると

いやそういう時ってそうなるよね。分かる分かる!

という風に、お客様は作品の中で生きているはずだと分かっているのにもかかわらず、

自然と感情移入したり、共感したりしているのです。

つまり、完全に芝居の世界に入っているということなのです。

ではでは、何故、身体動作から感情を誘発した演技がお客様にとってお芝居の世界に入り込めるのかということですが、それは、お客様は人間の動作を見て動機を感じ取っているからなのです。無意識に。これはどういうことか? まず、私たちの普段の感情の動きを説明しますと…

私たちは感情が動く前に「驚く」ということをしています。驚く時は、息を吸います。つまり息を吸うと感情が動く前なのだということが人間無意識に分かるのです。

例えば…自分が言ったことで相手が「今ちょっと動揺したよね?」って言いたくなる時ありますよね(笑) こういう時の動作を細かく言うと、自分が話をした時に驚くポイントがありました。その時に、不意に息を無意識に吸ってしまっている。その動きを見て自分は相手に対して「今ちょっと動揺したよね?」と思うわけです。

これの応用は、例えば…まず、相手は絶対に何を聞いても動揺しないと決め込んでいた場合、当然何を聞いても驚かないぞ!と構えたりするものです。こういう人は大抵息を止めています。そして驚くであろうポイントの時でも息を止めている。要は悟られまいとしている訳ですね。こういう時は息はコントロールして止めているのです。そして悟られまい悟られまいとしながら誤魔化す様にして、分からないところで息を吸うのです。これが怒っている時であれば、びっくりして息を吸うのではなく、相手の言葉にかぶせるんだという気持ちで息を吸えば、本当に怒っている人や、討論している人のように見えるのです。ケンカと同じでビックリしたら負けなので、びっくりしないようにしないといけないのです(笑)

人間は驚くと感情に流されていきます。びっくりして怖いとなればトラやライオンだって逃げるのです。驚くということは、心に響くことに繋がるのでそこから先の感情は響き具合によっても変わります。びっくりして怒る人もいれば、びっくりして笑う人もいます。そういう風に感情を表現するとびっくりする度合いの表現も出来ます。シャレにならないくらいのビックリでしたら相当怒ることにもなるでしょうし(笑)

このようにまず感情の前には驚くということがあるので、絶対に息を吸う動作があるのです。この息を吸う時に、どういう感情になるのかがポイントで、これはその時その時の様々な条件で変わるわけですね。ですから、役に人物ならどういう条件で感情が湧きあがるのだろうと考えれば、身体の動きは段々と分かってきます。

しかし、この体の動きが分かったからと言って、すぐにその感情が湧き起こってくるわけではありません。何回も何回も繰り返し反復して感情が湧き起る感覚を探るのです。そうしていくうちに徐々に「今の感じかな」ということが分かり出してきます。そういう練習を経ていくと段々と感情を誘発させてくるようになる。そうするとお客様は「ああ、心が動いたんだな」と感じ取れるという具合になるわけなのです。

しかし、こういう感情表現をするとどういう効果が生まれるかはそれだけではありません。この感情表現方法は、お客様にとってリアリティのある表現になるだけではなく、実は、共演者の方にもズバッと心に入ってくるものになるのです。いえ、まだまだ、それだけではありません‼ スタッフの方の心にも響き、作り手全体の一体感が出てくるようになるのです。お客様と舞台が共感して感情移入して劇場空間を大切にする。この一体感が最高の舞台と言えるのです。

このように、全ての人間の奥底にある無意識の部分を呼び覚ましている感覚が実は演劇の技術にはたくさんあるのです。だから演劇って凄いことをしているのですよ。これらは俳優陣の方にお伝えしたいことです。俳優の仕事はとても崇高なことをしています。劇場全体が一体化するということは人一人が成し得ることではないからです。こういう現象は奇跡です。

その奇跡を起こす一人であるのです。ですので、俳優の演技の技術をしっかりと身につけて、奇跡を起こしてみませんか?あなたが何故舞台に立っているのか、きっとそれが分かることだと思います。これから舞台を経験されたい方も、この話に共感いただければ幸いです。

最後までご覧下さいましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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