2.お客さんを味方につける

これはにわかに信じがたい話かもしれませんが、

子どもに向けてのお芝居をされている人でしたらおそらく、よく分かる話だと思います。

子供に見せるお芝居は

お芝居の世界に巻き込む

とすぐに打ち解け合ってあっという間にコミュニケーションが成立するのです。

感情移入が半端ないので、

物語に一旦入ってしまうと、凄いものがあるのです。

主人公に対しての感情移入が特に凄く、悪役に対しては「ブーイング」の嵐(笑)

それだけ純真な目で見ているということもありますが、

もう一つは、「楽しい!」があるからなのですね。

子どもは遊びの達人ですよね。

こんなことでも遊びに出来るのかと感心することが多々ありますよね。

そういう姿を見ると、

原点はここなんだよな~

っていつも思います(笑)

それだけ想像力も豊かに働き、限りなく制限もないところは本当に勉強になります。

さて話を戻しますが、

お客さんを味方につけるってどういうこと?ってことですが、

俳優はお客さんを味方につけると極端ですが

その俳優が何をやってもお客様は良い様に取ってくださいます(笑)

これ本当なんですよ。

台詞で間違えて、言葉に詰まっても

『あそこで感極まって言葉が詰まってたところが特に良かった‼』となるんですよ(笑)

つまり、お客さんを味方につけると意図以上のものを感じ取って下さるのでとっても有り難いのです。

しかし、そうするためにはまず、お客様の信頼を勝ち取らなければいけません。

信頼を勝ち取るには、まず、お客様のニーズに応えられる演技がしっかりと出来ているかにかかってきます。

私を見て‼だけではいけないのです。

というか、私を見て‼というお芝居をするのは信頼を勝ち取った人にしかできないので、その前にすることがあるでしょというようなことを今からお話しします(笑)

お芝居は垣間見せる方が良い

これを演技で実践されている人は意外に少ないので驚きです。

これを実践しない人は演技をこういう風に考えているのではないかと推察します。それは…

演技は分かりやすく表現する

これは稽古あるあるなのですが、

演出家が前から見て、

『そんな心の動きでは小さくて分からないから、もっと大きく感情を出して』

というダメ出しが来ると、大抵演技者は感情を大きく出そうとします。

(まぁ、これはそもそも論からすると「感情を出す」という時点で演技を誤解されているなと思いますが…)

その大きく出した感情表現をお客様はどう見るのかというと

『そういう感情なんだ』と理解して、判断も出来るのですが、感情表現からくる伝わってくるものがないのですね。

それは何故かというと、

「私はこういう感情なんだぞ‼」という感情の方が伝わっているのではなくて、

大きく感情を出したという動機の方が伝わっているのです。

だから、観客からすれば、

「そういう気持ちなんですね。そうですか…」

としか取れない(笑)

これは感情の押し売りのようなもので、「売りたい売りたい」という動機が伝わっているから本来の感情が見えてこなくなっているのですね。

本来、感情というものは湧き上がるものですので、例え感情一つであっても湧き上がるためにはどうすれば良いのかという演技の研究は必要なのです。

まぁ、これは少し余談にはなるのですが、このような演技に陥りやすい人は実は「とっても良い人」が多く、「演出の言われた通りにしなきゃ」という思いや「お客さまに分かるように表現しなきゃ」という気持ちがどうしても勝ってしまうのですね。

ですので、私はそういう方々に申し上げたいことがあります。

人に不親切なくらいが丁度いいと(笑)

自分の性格の良さが演技で仇になっているんだだったら、少しは悪くなって物事を逆から見てみては如何ですかと言いたいのです。

悪い人の方が女性にもてるって言いますでしょ(笑)

だらしない人の方が母性本能をくすぐるって言いますでしょう(笑)

すみません。男性側の立場だけでものを言って恐縮です(笑)

そういうことですよ。

出来の悪い人間ほど可愛いってこともあるのですよ。

悪すぎるのは当然限度がありますけども(笑)

これは悪くなれと推奨している訳ではありませんからね(笑)

それよりも人間誰しも一つや二つ悪いところはあると思うのです。

それを悪いと思わずに個性としてとって欲しい

のです。

誰に何と言われようと私はこう思うんだ‼という強い信念で取り組んで欲しいのです。

そういう信念で臨めば、表現しなければいけないという考えは吹っ飛びます。

自分の本来の思っている表現を表したくなるものです。

しかしその行動を時に自分勝手な、わがままだと取る人もいますが、

自分が自分である

という人にしか、見ている人には感情を汲み取ってはくれないのです。

演技は自分の思った通りに表現する

分かりやすくするはないのです。

それが見ている人には分かり難いということがあるかもしれない。

しかし、その分かり難いことが、逆に観客の想像を膨らませるきっかけになることもあるのです。

演技は分かり難くした方が親切

という考え方です。

「どうしてそうするんだろう?」

「何であんなこと言ったんだろう?」

「どうしてあんな表情をしてるんだろう?」

このようにお客様に思っていただいた方が楽しいのです。

そうすると、先ほどの話、思い出せますか?

「子どもは楽しみを見出すとその世界に入り込む」

これは子どもだけに限ったことではなかったのです。

世界に入り込むと役の人物に感情移入しやすくなるのですね。

この状態がお客様を味方につけるという状態なのです。

分かりやすい表現は卒業して、これからは、感情移入しやすい表現を身につけてみませんか。

そのためにはどうすればお客様が観てくれるのかをもっとしっかりと追究することです。

先ほど申し上げました「垣間見る演技」とは、

例えば、人は隠そうとしているのを見ると余計に見たくなる。

つまり、自分の思いを隠せば隠すほどミステリアスになり、関心を寄せる行動に繋がる。

ということです。

手品は、種のある方に意識が行ってもらっては困るので、種のないところに意識を向けて、その間に種に細工をしますよね。

演技はその逆で、種に意識が行ってもらう様に沢山細工しているのです。

その細工はゴールを見えにくくすればするほど面白くなってくるのですね。

簡単に言うと、話がハッピーエンドで終わるのでしたら、最初は不幸せなことばっかり続いている方が面白いのですね。そして、奇跡的な出来事が起きて、好転していくように話を作っていけば、話に入り込みやすいのです。その時に意識するのが、絶対にハッピーにはならないという状況を作れば作るほど、その好転する出来事はより奇跡に感じますよね。

次の展開を読めなくするためにも、台本の台詞をまともに受け取って演技をしてはいけないのです。

この台本に書かれている台詞の奥にあるものは何かを追究することが俳優の楽しみであってほしいのです。

台本を説明するのは卒業して、お客様にどうやってご覧いただくかを考えれば、

先ほど申し上げたお客様を味方につける技術は必要不可欠のものとなるはずです。

そのためには、もっと観客の立場でものを見られる目を養わないといけません。

私たちの取り組みの一つで、稽古の時に出番でない人は必ず前から見るルールを設けていますが、こうして前からずっと見続けると段々と観客の感覚で物事が見られるようになってきます。この習慣はかなりお薦めです。

一生懸命演じても、観ていただけないこともある。

最後までご覧くださいましてありがとうございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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