2.演技は心を動かせる技術

演技は心を動かせる技術です。これは誰の心を動かせるのかというと・・・

お客様の心でもあり、自分の心でもある

のです。お客様なら分かりますが、自分ってどういうこと? そう思われる方もおられるかも知れません。

演技というのは、人の心を動かせる技術です。では、どのようにして演技で人の心を動かすのかというお話をします。しかし、その前にこの話からしなければいけません。

「伝える演技」と「伝わる演技」

この違いは簡単に言うと、「伝える演技」にはお客様がどう思うところまでは責任がなく、『伝わる演技』にはお客様がどう思うところまで責任を持つということです。

あなたはどちらのお芝居が観たいですか?(笑)

もちろん『伝わる』演技ですよね。

極論を言いうと「伝える演技」は誰にでも出来るのです

つまり「伝える演技」と言ってはいますが、それは技でも何でもないモノで、実は演技ではないのです。あくまでも俳優の演技はお客様がどのように思うかまで責任を持つことが大前提なのです。

『伝わる技術』を演技というのです

次に、この『伝わる演技』はどのようにするのかということをご説明します。

人は、例えば、誰かと会話をしている時、

相手の話している内容よりも相手の話している動機に重きを置く場合が多い

のですね。その会話相手が親しい人であれば少し分かり難いですが、例えば、初対面の人と話をするとそれが顕著に表われます。そういう状況だと、例えば…

天気の話をしても、天気が気になってる人はまずいない(笑)

相手がどう出てくるか、または好意を持ってくれているだろうかと相手の動機がどうしても気になるはずですよね。

では、相手の動機をどのようにして認識しますか?

今、私のこと嫌だと思っている?…なんて露骨には聞かないですよね(笑)

動機はどこで分かるかというと、話し方であったり、仕草であったり身体の動作であって、決して話の内容ではないのですね。まぁ、もちろん露骨に言う人もいるでしょうけど、その場合は置いておいて(笑) つまり、視覚や聴覚によるもので感じ取っています。そして、この動機の多くは、

相手が無意識に感じ取っている。つまり「伝わっている」のです

話していて、今日はなんだか機嫌が良いなとか感じが悪いなとか、そのように相手の動機を無意識に感じ取っている場合が多いのです。この原理を使えばこういうことが分かります。

動機を上手く表現すれば『伝わる演技』が出来る

ということなのです。この動機を上手く表現することが演技というわけなのです。少し難しい話になりましたが、本来私たちは、動機から感情が誘発されてるわけですが、その動機からくる身体の動きを模倣すれば自然とその動機から表れる感情が自然と湧き起こるようになるのです。その動機からくる身体の動作を私たちは、

『感情のスイッチ』

と言っています。

この感情のスイッチを押すことで自動的に感情を湧き上がらせている。私たちは普段このように動機から感情を湧き上がらせることは自然にしています。ですが演技ではそうは参りません。役の人物に成りきるのは非常に難しいことでもありますし、自分を違う人物に変えることは不可能だからどうしても無理があるのです。ですから、私は、どういう風に役の人物にアプローチするのかというと、

役の人物を介して自分を表現する

アプローチで臨んでいます。こうすれば、対象表現は飽くまでも自分であって役の人物ではないということになります。つまり、違う人になろうとせず飽くまでも自分を出すのだと出来るだけ自然な表現が出来るような考え方に工夫をしているのです。違う人になろうとすると、それは動機となってしまうので無意識に伝わってしまう。感情を出そうとすると、それも動機となって無意識に伝わる。つまり動機の部分は、

俳優自身の動機ではなく役の人物の動機そのものでなければいけない

のです。そうでなければ、お客さまに無意識に伝わってしまって、作品の世界に誘うことを邪魔することに繋がってしまうのです。役に成りきるためにはこの工程がなければ成立しません。という様に、動機は人に無意識に伝わるので、その動機から作っていかないと『伝わる演技』とはならないのです。動機からどのように作るかというと、動機からみた相手の仕草やモノの言い方への反応を感覚て掴み取る作業をします。この時に、重要になってくるのが、感情を呼び起こすメカニズムの引き出しです。

例えば、相手の言動に怒る時は、びっくりしたように息を吸うこと。この時に、自分が吸っているというより、無理に何かに吸わさせているというような感覚のイメージを持つと本当に怒っている感覚が呼び覚まされるようになります。これが『身体動作から感情を誘発させる』メカニズムです。こういう感情を呼び起こすメカニズムをたくさん知ることで、相手の台詞との擦り合わせを行い、適切な感情のスイッチを押すと自然な感情が表現されるようになるのです。このように作られた演技は、動機から動いたものとなるので、お客様には無意識に伝わっていく。こうして、作り上げたものが、やがてお客様の心を動かしていくということなのです。

そして、この演技は、

自分の心も動かせる技術であることも忘れてはいけません

身体動作から感情を誘発させたものは、自分にも新鮮に伝わってきて、自分ってこういう感覚があったんだと知ることにも繋がるのです。

こういう経験を稽古で数多く積むことで、『伝わる演技』を自らで体感する。そうすると今まで目に見えなかった『伝わる演技』の存在を知ることになります。これが俳優の自信へと繋がるのです。

如何ですか? これで、伝わる演技の存在がなんとなくお分かりいただけたのではないでしょうか?

これは、普段のコミュニケーションでも、自分との会話などにも、とても有効で、是非お試し頂きたい練習法でもあるのです。例えば、普段のコミュニケーションで相手を喜ばせたいと思ったならば、「私はあなたに関心を持ってます」という動機から動かせる身体動作を模倣してみる。すると、相手は無意識にその動作からあなたの動機を感じ取り、相手は幸せな気持ちへと導かれるようになるのです。

例えば、自分の気分が優れない時、気分が良いときの身体動作を試してみるのです。この場合ですと、笑顔になってゆっくりと息を吸い込むこと。そうすると段々と気分が良くなってきます。ただ、この時重要なのが動機です。「こんなことしても、全く意味がない」という動機があなたにあったのであれば、いくらその身体動作を起こしても、良い感情を誘発されることは絶対にありません。そういう動機からくるものは無意識に悪い感情に追いやられているので、気分は沈むばかりになるのです。ですから、自分の動機を出来るだけ奇麗に、良いものにしておかないと、

悪いことは次々に起こってしまう

のです。これぞ「引き寄せの法則」(笑)

自分とのコミュニケーションでも動機を良いものにしておくと、身体動作から感情を誘発されるものが発揮されるようになり、自分の感情のコントロールも出来るようになります。私はもともと感情の激しい人でしたのですが(笑) これをすることでだいぶんとコントロールできるようになりました。感情を激しくすると、どうしても自分自身が振り回させて、それが肉体的精神的にも結構疲弊しますよね。ですので、このような自分との会話を上手く図りながら、

常に自分の気持ちを中庸へ持って行くことは今の世の中でとても必要なことと思います。

演技って奥が深いでしょ(笑)

こう思っていただける人が増えれば、きっと俳優のお仕事はとっても崇高な勤めをしている人だとお感じ頂けると思います。そしてこのことが演劇の魅力をさらにアップさせる事にも繋がると信じ、これからも日常でも使える演技論を書かせていただきます。

最後までご覧くださいまして、誠に有難うございました。

劇団道化座に13年間所属し、日本各地、海外公演に数多く出演。道化座退団後はフリーで演出・俳優活動を行う。「社会に寄り添う演劇」を掲げ、2019年に劇団ブルアを設立。同劇団代表を務める。現在の演劇活動として、演出業、俳優業だけではなく、関西各地で演劇のワークショップで演技指導も行う。出演回数は400ステージを超え、実践的な演技指導が持ち味。またスタニスラフスキーシステムを独自にアレンジしたブルアメゾッドを作り、「身体動作から感情を誘発させる」演技術を展開し、リアリティーのある演技を追究。「役の人物を介して自分を表現する」「自己探求」などを念頭に演技向上を図り、ありのままの魅力的な自分で勝負する独特の演技コンセプトが好評を得ております。

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